『フェル・アルム刻記』 追補編

§ 四. フェル・アルム中枢――王家

フェル・アルムの象徴、“聖獣カフナーワウ”

 巨大な一本の角を生やしたこの生物は、偽史によればユクツェルノイレがフェル・アルム平定の際に騎乗していた、神の使いということになっている。以来、聖獣カフナーワウの姿はフェル・アルムの象徴として意匠化され、今日に至っている。
 実際はデルネアによって捏造された象徴であり、正史上には登場しない。だが、この聖獣ときわめて酷似している生命体は、アリューザ・ガルドに実在する。東方の守護を象徴する神獣、イゼルナーヴである。

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ドゥ・ルイエ皇

 フェル・アルムにおける国王の呼称。国王となった者はみな、古い名前を捨ててドゥ・ルイエを自らの名とする。
 フェル・アルムにおいてドゥ・ルイエの権限は絶対的であるものの、ドゥ・ルイエが増長し、専横的振る舞いをするなどあり得ない。唯一、歴史上で恐怖政治を敷いたのが暴君の呼び名高いルイエ『ルビアン』であった。しかし彼はデルネアの力によって抹消され、その後の王座にはそれまでとは全く違う血筋が座ることになる。
 それまでドゥ・ルイエの座にあったのはルイエ『インサラ』の血を引く者だったが、ルビアンの暴政により彼ら一族はデルネアによって粛清された。デルネアが次期ドゥ・ルイエに選んだのはワインリヴであった。彼はそれまでの王族の何ら関わりを持たぬ人間であるが、デルネアの気まぐれにも似た一存によって決定された。表向きは神託によって神から選ばれたことになっているため、新しいルイエの血に異論を唱える者は存在しなかった。以降、現ドゥ・ルイエであるサイファに至るまで、ワインリヴの一族がドゥ・ルイエの冠を戴いている。
 なお、ドゥ・ルイエの名は、ユクツェルノイレの息子であるドゥ・ルイエ・セーマ・デイムヴィンの名に由来する。

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近衛兵

 ドゥ・ルイエ皇の側近として、王の身を護る役目を担っている中枢の戦士達。
 儀式に携わる際に彼らが帯びる武器や鎧は儀仗《ぎじょう》の要素が強く、華麗ではあるが強固なものとは言い難い。しかしいざ戦いとなると、たとえ武器や鎧が無くともドゥ・ルイエのためには死をいとわないのが彼ら近衛兵だ。その忠誠心もさることながら、彼らの腕前はフェル・アルム全土を見回しても右に出る者がいないほど卓越したものである。
 近衛兵は二十名ほどの人数によって構成されており、統率する隊長が一名いる。隊長は慣例として、ドゥ・ルイエ皇ゆかりの者から選出されている。ドゥ・ルイエがもっとも信頼を置くのは近衛隊長でなければならないため、ドゥ・ルイエとなる人物が幼少のみぎりから、近衛隊長の候補が選出される。多くの場合、ドゥ・ルイエの親友が近衛隊長に就任することになるが、就任前後の過酷な訓練が彼らには待ち受けている。それゆえ、隊長候補者は剣技を教わり、才覚を現さなければならない。
 近衛兵は、ドゥ・ルイエを守護する役目を担っている以上、有事の際であれ、ドゥ・ルイエに代わり行政に携わることは出来ない。

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