イャオエコの図書館 魔法

§ 一. 序

 “魔法”は、ある素質を持ったバイラル達のみが用いている特技であり、強い魔力の所持者は彼ら以外にはいない、というように誤認されることが多いのだが、実際は違う。魔法は、そのように閉じたものでは無いのだ。
 このアリューザ・ガルドそのものが大いなる魔力に覆われている。人間や生き物、大地や海、さらには草木に至るまで、程度の大小はあるにせよ何らかの魔力を内包している。太古の昔、アリューザ・ガルドを彩った“原初の色”が魔力そのもののであるからだ。

§ 魔法(広義)

 魔法とは、狭義においてはバイラルが主として使用するものとして認識されている。“魔導の時代”において、バイラル達が魔導を行使していたためであり、また術やまじないといった秘術を用いるのも主として彼らしかいない。バイラル以外の種族で魔法使いとして名を馳せた者は、数少ない例外を除いてほとんどいない。
 しかしアイバーフィンにせよドゥローム、その他種族にせよ、バイラルからすれば行使不可能で奇跡としか言いようがない特徴を持っている。アイバーフィンの翼やセルアンディルの治癒力、ドゥロームの龍化、さらには龍達の炎に至るまで、広義においてはこれもまた魔法と言えるのだ。
 バイラル以外の種族は、各々の属する事象界と密接に繋がっている。事象界はそれぞれ特定の“原初の色”によって構成されている。それが各々の種族を特徴づけるもの、種族特有の能力に結びついているのだ。

§ 魔法(狭義)

 では、バイラル達が用いる魔法とは何なのだろうか?
 それは、世界に存在する“色”、もしくは自分自身が内包する“色”を魔力として具現化させ、効果を持たせて発動させることである。“色”をどこから抽出するかによって魔法の意味や威力は変わってくる。
 “原初の色”の一片を呼びだすために、魔導師達は言葉を唱える必要があると考えた。
 もっとも純粋な“色”を抽出する言語は、“神々の言語”たるタス・アルデスである。だがアリューザ・ガルドの住民には発音不可能であるため、タス・アルデスを簡素化させた“礎の言語”ラズ・デンを用いるのが理想であるとされる。だが、ラズ・デンもその多くが失われ、断片的にしか伝承されていない。ゆえに詠唱自体はハフトを用いることが多い。
(ハフト:ディトゥア神族のひとり、“紡ぎ出づる言葉、金の角を持ちし語り部”アヴィトによってアリューザ・ガルドに伝えられた、古い時代の言語)

 ここに、よく知られている三種類の魔法について記すことにする。

まじない
 市井でよく見かける魔法。
 術者自らの魔力を用いる。効果は小さく、不確実なものである。まじないがけの言葉は、多くは人伝いに継承されており、きちんとした発音でハフトが用いられることはまずあり得ない。
 まじない師達は自分が唱えている言葉の意味を知らずにまじない事をしており、“原初の色”についての知識は乏しいだろう。


 市井でよく見かける魔法。
 ハフトの詠唱によって、術者本人が内包する魔力を具現化させ、効果を与える。
 今の世にあって一般的に“魔法使い”と呼称される人によって行使される。
 “色”の何たるか、言葉の意味合いを理解しているかによって効果は大きく異なる。
 人間が内包する魔力には個人差があるが、ある程度の魔力を持たないと術の行使は不可能である。

魔導
 魔法の中でももっとも威力が大きく、膨大な知識と能力が必要とされるもの。
 アズニール暦四〇〇年代に起きた“魔導の暴走”を経て封印されており、今やその多くを知ることはできない。
 魔力の抽出と、魔導の発動に使用される言語はラズ・デン。長い呪文の詠唱はハフトを用いる。術者本人の魔力と同時に、周囲に存在する事物の中から“原初の色”の一片を引き出して魔法を発動させる。
 かつての魔導師達が追い求めた“魔法の究極”の姿とは、“光”という絶対的な色を作り出すことであった。“光”を求めた理由や、“魔法の究極”を発動させる要因などについては不明である。
 魔法の究極を探求するために、より強い“呪紋”が研究され、世界に存在する“色”を増強するために魔導塔が建造された。究極を追い求めるあまり魔導師達は魔法の本質を見失ってしまい、皮肉にも“魔導の暴走”という形なき力の暴走を自ら呼び込む結果となってしまったのである。

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